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横浜地方裁判所 平成5年(わ)1842号 判決

本籍

神奈川県茅ヶ崎市柳島海岸九七六番地

住居

神奈川県茅ヶ崎市赤羽根三二七九番地 プレジール茅ヶ崎二〇一号室

団体役員

横田光弘

昭和三二年一一月二四日生

主文

被告人を懲役二年及び罰金五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、昭和六二年四月三〇日から平成五年六月二二日まで神奈川県議会議員であったものであるが、神奈川県議会議員である被告人を推薦し支持する政治団体「湘南政経懇話会」、「明るい神奈川を創る会」及び「国際経済研究会」の三団体に関し、「湘南政経懇話会」につき代表者として、「明るい神奈川を創る会」及び「国際経済研究会」につき会計責任者として右三団体に対する寄附金の受入れ等の業務に従事していた武藤公一、「国際経済研究会」の代表者として同団体に対する寄附金の受入れ等の業務に従事していた佐藤敏人及び「明るい神奈川を創る会」の代表者として同団体に対する寄附金の受入れ等の業務に従事していた古谷義一の三名と共謀の上、

第一  神奈川県選挙管理委員会に提出する前記三政治団体の収支報告書の虚偽の記入をしようと企て

一  神奈川県選挙管理委員会に提出する平成二年分の「湘南政経懇話会」、「明るい神奈川を創る会」及び「国際経済研究会」の収支報告書を作成提出するに当たり

1 平成三年三月ころ、神奈川県茅ヶ崎市矢畑九九五番地三〇所在の株式会社武藤電気商会事務所などにおいて、「湘南政経懇話会」の収支報告書の収入項目寄附の内訳欄に、実際には別紙一覧表一「寄附名義人」欄記載の金子ユリほか一六名からの寄附はなかったにもかかわらず、同人らから、同表「寄附年月日」欄記載のとおり、平成二年一一月七日から同年一一月二六日までの間、前後一七回にわたり、同表「寄附名目額」欄記載のとおり、五〇万円ないし一五〇万円の各寄附があった旨の虚偽の記入をし、平成三年三月二〇日、これを横浜市中区日本大通一番地所在の神奈川県選挙管理委員会に提出し

2 平成三年三月ころ、右株式会社武藤電気商会事務所などにおいて、「明るい神奈川を創る会」の収支報告書の収入項目寄附の内訳欄に、実際には別紙一欄表二「寄附名義人」欄記載の金子和雄ほか一七名からの寄附はなかったにもかかわらず、同人らから、同表「寄附年月日」一欄記載のとおり、平成二年一〇月一一日から同年一一月一六日までの間、前後一八回にわたり、同表「寄附名目額」欄記載のとおり、五〇万円ないし一五〇万円の各寄附があった旨の虚偽の記入をし、平成三年三月二五日、これを右神奈川県選挙管理委員会に提出し

3 平成三年三月ころ、右株式会社武藤電気商会事務所などにおいて、「国際経済研究会」の収支報告書の収入項目寄附の内訳欄に、実際には別紙一覧表三-一「寄附名義人」欄記載の金子和雄ほか一八名からの寄附はなかったにもかかわらず、同人らから、同表「寄附年月日」欄記載のとおり、平成二年九月三日から同年一一月一六日までの間、前後一九回にわたり、同表「寄附名目額」欄記載のとおり、五〇万円ないし一五〇万円の各寄附があった旨の虚偽の記入をし、更に、同収支報告書の支出項目政治活動費の内訳欄に、実際には別紙一覧表三-二「組織活動費名義人」欄記載の武藤公一ほか一一名に対し、組織活動の支出がなかったにもかかわらず、同人らに対し、同表の「組織活動費年月日」欄記載のとおり、平成二年九月九日から同九月二九日までの間、前後一二回にわたり、同表「組織活動費名目額」欄記載のとおり、八〇万円ないし一五〇万円の組織活動費の支出があった旨の虚偽の記入をし、平成三年三月二六日、これを右神奈川県選挙管理委員会に提出し

二  前記神奈川県選挙管理委員会に提出する平成三年分の「湘南政経懇話会」、「明るい神奈川を創る会」及び「国際経済研究会」の収支報告書を作成提出するに当たり

1 平成四年三月ころ、前記株式会社武藤電気商会事務所などにおいて、「湘南政経懇話会」の収支報告書の収入項目寄附の内訳欄に、実際には別紙一覧表四-一「寄附名義人」欄記載の荒川誠之助ほか二二名からの寄附はなかったにもかかわらず、同人らから、同表「寄附年月日」記載欄のとおり、平成三年八月一〇日から同年一二月三〇日までの間、前後三七回にわたり、同表「寄附名目額」欄記載のとおり、二〇万円ないし一五〇万円の各寄附があった旨の虚偽の記入をし、更に、同収支報告書の支出項目政治活動費の内訳欄に、実際には別紙一覧表四-二「組織活動費名義人」欄記載の金子和雄ほか一五名に対し、組織活動費の支出がなかったにもかかわらず、同人らに対し、同表「組織活動費年月日」欄記載のとおり、平成三年二月一五日から同年一二月二八日までの間、前後二三回にわたり、同表「組織活動費名目額」欄記載のとおり、二〇万円ないし一五〇万円の組織活動費の支出があった旨の虚偽の記入をし、平成四年三月二五日、これを右神奈川県選挙管理委員会に提出し

2 平成四年三月ころ、右株式会社武藤電気商会事務所などにおいて、「明るい神奈川を創る会」の収支報告書の収入項目寄附の内訳欄に、実際には別紙一覧表五-一「寄附名義人」欄記載の棚橋英彦ほか二二名からの寄附はなかったにもかかわらず、同人らから、同表「寄附年月日」欄記載のとおり、平成三年八月一〇日から同年一二月一七日までの間、前後三七回にわたり、同表「寄附名目額」欄記載のとおり、二〇万円ないし一五〇万円の各寄附があった旨の虚偽の記入をし、更に、同収支報告書の支出項目政治活動費の内訳欄に、実際には別紙一覧表五-二「組織活動費名義人」欄記載の宮沢博ほか一二名に対し、組織活動費の支出がなかったにもかかわらず、同人らに対し、同表「組織活動費年月日」欄記載のとおり、平成三年七月一五日から同年一〇月三〇日までの間、前後二二回にわたり、同表「組織活動費名目額」欄記載のとおり、二〇万円ないし一五〇万円の組織活動費の支出があった旨の虚偽の記入をし、平成四年三月三〇日、これを右神奈川県選挙管理委員会に提出し

3 平成四年三月ころ、右株式会社武藤電気商会事務所などにおいて、「国際経済研究会」の収支報告書の収入項目寄附の内訳欄に、実際には別紙一覧表六-一「寄附名義人」欄記入の木村長司ほか二一名からの寄附はなかったにもかかわらず、同人らから、同表「寄附年月日」欄記載のとおり、平成三年六月二日から同年一二月七日までの間、前後三六回にわたり、同表「寄附名目額」欄記載のとおり、二〇万円ないし一五〇万円の各寄附があった旨の虚偽の記入をし、更に、同収支報告書の支出項目政治活動費の内訳欄に、実際には別紙一覧表六-二「組織活動費名義人」欄記載の金子和雄ほか一二名に対し、組織活動費の支出がなかったにもかかわらず、同人らに対し、同表「組織活動費年月日」欄記載のとおり、平成三年三月六日から同一〇月一〇日までの間、前後一六回にわたり、同表「組織活動費名目額」欄記載のとおり、二〇万円ないし一五〇万円の組織活動費の支出があった旨の虚偽の記入をし、平成四年三月三一日、これ右神奈川県選挙管理委員会に提出し

第二、一 武藤公一の所得税を免れようと企て、平成二年分及び同三年分の前記各収支報告書に寄附名義人として記載されていた同人につき、前記神奈川県選挙管理委員会から寄附金控除のための書類を入手し、同人が所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装って所得の一部を秘匿した上

1  同人の平成二年分の正当な課税される所得金額は二一三七万円、これに対する所得税額は六七八万五〇〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した実際納付税額は一二一万二一〇〇円であったにもかかわらず、平成三年二月二一日、神奈川県藤沢市朝日町一番一一号所在の藤沢税務署において、同税務署長に対し所得税確定申告をするに際し、架空の寄附金控除金額を計上した上、課税される所得税額は一六五四万五〇〇〇円、これに対する所得税額は四七一万八〇〇〇円、実際納付税額はマイナス八五万四八二〇円である旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の実際納付税額と申告に係る虚偽過少の納付税額との差額二〇六万六九〇〇円を免れ

2  同人の平成三年分の正当な課税される所得金額は二八八五万二〇〇〇円、これに対する所得税額は一〇五二万六〇〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した実際納付税額は二二七万〇八〇〇円であったにもかかわらず、平成四年二月二五日、右藤沢税務署において、同税務署長に対し所得税確定申告をするに際し、架空の寄附金控除金額を計上した上、課税される所得税額は二三九二万七〇〇〇円、これに対する所得税額は八〇六万三五〇〇円、実際納付税額はマイナス一九万一六七五円である旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の実際納付税額と申告に係る虚偽過少の納付税額との差額二四六万二四〇〇円を免れ

二 佐藤敏人の所得税を免れようと企て、前同様、平成二年分及び同三年分の前記各収支報告書に寄附名義人として記載されていた同人につき、前記神奈川県選挙管理委員会から寄附金控除のための書類を入手し、同人が所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装って所得の一部を秘匿した上

1  同人の平成二年分の正当な課税される所得金額は二〇四一万八〇〇〇円、これに対する所得税額は六〇七万四四〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した実際納付税額はマイナス二一七万三〇四〇円であったにもかかわらず、平成三年三月一四日、前記藤沢税務署において、同税務署長に対し所得税確定申告をするに際し、架空の寄附金控除金額を計上した上、課税される所得金額は一五九二万八〇〇〇円、これに対する所得税額は四二三万六六〇〇円、実際納付税額はマイナス四〇一万〇八四〇円である旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の実際納付税額と申告に係る虚偽過少の納付税額との差額一八三万七八〇〇円を免れ

2  同人の平成三年分の正当な課税される所得金額は六八九五万四〇〇〇円、これに対する所得税額は二〇七四万八五〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した実際納付税額は九四五万四七〇〇円であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、右藤沢税務署において、同税務署長に対し所得税確定申告をするに際し、架空の寄附金控除金額を計上した上、課税される所得税額は六四四六万四〇〇〇円、これに対する所得税額は一八五〇万三五〇〇円、実際納付税額は七二〇万九七〇〇円である旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の実際納付税額と申告に係る虚偽過少の納付税額との差額二二四万五〇〇〇円を免れ

三 古屋義一の所得税を免れようと企て、前同様、平成二年分及び同三年分の前記各収支報告書に寄附名義人として記載されていた同人につき、前記神奈川県選挙管理委員会から寄附金控除のための書類を入手し、同人が所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装って所得の一部を秘匿した上

1  同人の平成二年分の正当な課税される所得金額は一六五四万四〇〇〇円、これに対する所得税額は四三六万一四〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した実際納付税額はマイナス二〇万四六一四円であったにもかかわらず、平成三年三月一三日、前記藤沢税務署において、同税務署長に対し所得税確定申告をするに際し、架空の寄附金控除金額を計上した上、課税される所得税額は一三五五万四〇〇〇円、これに対する所得税額は三〇一万五九〇〇円、実際納付税額はマイナス一五五万〇一一四円である旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の実際納付税額と申告に係る虚偽過少の納付税額との差額一三四万五五〇〇円を免れ

2  同人の平成三年分の正当な課税される所得金額は七九六万一〇〇〇円、これに対する所得税額は一四八万八三〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した実際納付税額はマイナス一七二万二六八五円であったにもかかわらず、平成四年二月二八日、右藤沢税務署において、同税務署長に対し所得税確定申告をするに際し、架空の寄附金控除金額を計上した上、課税される所得金額は五五一万八〇〇〇円、これに対する所得税額は八〇万三六〇〇円、実際納付税額はマイナス二四〇万七三八五円である旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の実際納付税額と申告に係る虚偽過少の納付税額との差額六八万四七〇〇円を免れ

四 別紙一覧表七「納税義務者」欄記載の武藤仁一ほか一四名と更に各共謀の上、同人らの平成二年分の所得税を免れようと企て、前同様、同年分の前記収支報告書中に寄附名義人として記載されていた同人らにつき、前記神奈川県選挙管理委員会から寄附金控除のため書類を入手し、同人らが所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装って所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の正当な課税される所得金額、これに対する所得税額及び所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した実際納付税額はそれぞれ同表「正当税額等『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」各欄記載のとおりの額であったにもかかわらず、同表「所得税確定申告状況『申告年月日』、『申告書提出税務署』」各欄記載のとおり、平成三年二月二一日から同年三月一五日までの間、前後一五回にわたり、前記藤沢税務署ほか二か所において、各所轄税務署長に対し、前記一五名の納税義務者の各所得税確定申告をするに際し、各人につき、架空の寄附金控除金額を計上した上、課税される所得金額、これに対する所得税額及び実際納付税額はそれぞれ同表「所得税確定申告状況『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」各欄記載のとおりである旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告所を各提出し、正規の実際納付税額と申告に係る虚偽過少の納付税額との差額(同表「ほ脱額」欄各記載のとおり、合計一三四一万七三〇〇円)を免れ

五 別紙一覧表八「納税義務者」欄記載の内田正勝ほか一八名と更に各共謀の上、同人らの平成三年分の所得税を免れようと企て、前同様、同年分の前記収支報告書中に寄附名義人として記載されていた同人らにつき、前記神奈川県選挙管理委員会から寄附金控除のため書類を入手し、同人らが所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装って所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の正当な課税される所得金額、これに対する所得税類及び所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した実際納付税額はそれぞれ同表「正当税額等『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」各欄記載のとおりの額であったにもかかわらず、同表「所得税確定申告状況『申告年月日』、『申告書提出税務署』」各欄記載のとおり、平成四年二月二三日から同年三月一六日までの間、前後一九回にわたり、前記藤沢税務署ほか三か所において、各所轄税務署長に対し、前記一九名の納税義務者の各所得税確定申告をするに際し、各人につき、架空の寄附金控除金額を計上した上、課税される所得金額、これに対する所得税額及び実際納付税額はそれぞれ同表「所得税確定申告状況『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」各欄記載のとおりである旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告所を各提出し、正規の実際納付税額と申告に係る虚偽過少の納付税額との差額(同表「ほ脱額」欄各記載のとおり、合計二一九〇万八六〇〇円)を免れ

もって、いずれも不正の方法で所得税を免れ

たものである。

(証拠)

一  被告人の公判供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通

一  佐藤仁一(謄本)、佐藤伸子(謄本)、武藤孝子(謄本)、小林トリ(謄本)、永野良夫(謄本)、宮沢靖麿(謄本)、金子和雄(謄本)、金子ユリ(謄本)、木村長司(謄本)、木村美恵子(謄本)、田中信義(謄本)、田中松治(謄本)、渡辺明子(謄本)、渡辺敏幸(謄本)、内田正勝(謄本二通)、武藤良子(二通、謄本含む)、大山茂己(謄本)、宮沢博(謄本)、菅原一則(謄本二通)、棚橋英彦(謄本)、佐藤君代(謄本)、荒川誠之助(謄本)、武藤公一(六通、謄本含む)、古谷義一(謄本三通)、佐藤敏人(謄本五通)、長峯和行(二通、謄本含む)、佐藤孝行、風間豊、山口里己(謄本)、池上實(謄本)、横田久美子(二通)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の告発書

一  神奈川県選挙管理委員会書記長作成の「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面謄本二通

一  検察事務官澤井智子作成の入手報告書七通

一  検察事務官、迫勝宏、同澤井智子作成の捜査報告書

一  司法警察員作成の電話通信紙謄本

(法令の適用)

罰条 第一の各行為

政治資金規正法二五条一項、一二条一項

(なお、二七条一項により禁錮刑と罰金刑併科)

刑法六〇条

第二の各行為

所得税法二三八条一項(懲役刑と罰金刑併科)

刑法六〇条

併合罪の処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条

(刑及び犯情の最も重い第二、一、2の罪の刑に法定加重)

罰金刑につき

刑法四五条前段、四八条二項

労役場留置 罰金刑につき

刑法一八条

刑の執行猶予 懲役刑につき

刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、神奈川県議会議員であった被告人が、被告人を推薦する政治団体は「湘南政経懇話会」の代表者であった武藤公一らと共謀の上、政治団体に対する個人の寄附金が所得税法上寄附金控除の対象となり、政治団体に寄附した者は、所得税の確定申告の際に、政治団体の発行する寄附金の領収証を税務署に提出すれば所得控除を受けられるという寄附金控除制度を悪用して、被告人の政治活動資金を集めようと企て、本件各政治団体において、寄附名義人となる者を募り、寄附名義人から寄附があった旨の内容虚偽の領収証を発行し、その見返りとして寄附名義人から領収証記載の架空の寄附金額の一〇ないし一一パーセントの金員を拠出させ、被告人がその拠出金の大部分を政治活動資金として取得するとともに、寄附名義人において、税務署に対し内容虚偽の右領収証を利用して虚偽の過少の所得税の確定申告をすることにより、右拠出金額以上の所得税を免れ、これに関連して、本件各政治団体において、それぞれの収支報告書に寄附名義人から右内容虚偽の領収証に見合う寄附がなされたなどと虚偽の記入をして、これを選挙管理委員会に提出していたという事案である。被告人は、その政治活動資金を専ら支援者の献金に依存していたのであるが、本件寄附名義人らが被告人の政治理念や政策を理解して賛同しその実現に向けて援助しようとする趣旨で寄附するものではなく、税金を不正に免れるため政治団体への寄附金控除制度を利用していることを認識していながら、本件各政治団体からの献金額が比較的多額(本件で被告人が受領した現金は合計一二六九万円である。)であったことから、政治活動資金不足を補うための資金調達の方法として、本件各政治団体を利用していたものであり、その動機に酌量の余地はない。また、本件の脱税方法は計画的かつ巧妙であり、本件ほ脱額は約四六〇〇万円にも達しており、租税の公平な負担を阻害し、国民の納税意欲を損なわせた犯情は悪質である。

政治資金規正法は、政治活動の公明と公正を確保し、民主政治の健全な発達に寄与することを目的としており、政治に携わるものはその責任を自覚して国民の疑惑を受けないように政治資金の収支を公明正大に行わなければならないにもかかわらず、被告人は自己の本件各政治団体が脱法的手段で多額の不正な利益を図っていることを認識しながらこれを正そうとしなかったものであり、被告人の政治家としての道義的、刑事的責任は重大である。

しかしながら、本件各政治団体は、その実質的主催者であった武藤公一らにより寄附金控除制度を悪用して所得税を不正に免れるために積極的に利用されていたのもであり、被告人を推薦する政治団体としての性格は形骸化していたこと、本件脱税については本件各寄附名義人によってすでに修正申告がなされるなどの修正措置が講じられていること、証拠上被告人には実行力と将来性のある新進気鋭の政治家としての評価も高いことが認められところ、被告人は、本件各政治団体の実態を認識していながら政治資金の献金を受けていたことに対する政治を率直に認め、被告人の政治理念に賛同して支持し応援してくれた人々や世話になった政党関係者らに多大の迷惑をかけたことを真摯に謝罪するとともに深く悔悟していること、被告人には前科前歴はなく、また、被告人は本件で身柄を拘束されるなど、反省の機械も十分に与えられていることなど被告人のために酌むべき事情も認められるもので、主文の量刑を選択することとした。

(出席検察官 村上満男)

(同 弁護人 矢田次男)

(裁判官 木下徹信)

別紙一覧表一

〈省略〉

別紙一覧表二

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別紙一覧表三-一

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別紙一覧表三-二

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別紙一覧表四-一

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別紙一覧表四-二

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別紙一覧表五-一

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別紙一覧表五-二

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別紙一覧表六-一

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別紙一覧表六-二

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別紙一覧表七

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別紙一覧表八

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